真和志高校の小禄先生から紹介されました黄金忠博(きがねただひろ)といいます。北海道出身で、沖縄県立芸術大学
絵画専攻油画コースを卒業後、現在の職場の前身にあたる芸大・美大受験予備校「那覇美術学院」に入社、2001年に「那覇造形美術学院」を開校し、経営と実技指導にあたっています。自分は教員免許は取得しましたが実務経験は無く、学校での美術教育というものがどういうものなのかはっきりいって分かりません。ただ芸大・美大受験の入試は専門性が高く、学校教育の中での『美術』で教わる技術力を逸脱しているように思います。ですから自分たちのような、専門で指導する場が必要だと感じています。
芸大・美大受験予備校で教わる『美術』は、ある意味特殊だと思います。入試では、出された問題に対して、ある一定時間内に作品を制作しなければなりません。デッサンであったり、油絵だったり彫刻だったりと、その専攻の専門技術で制作する。そしてそれを教授陣が評価し合否が決まる。ですからこちらとしては『受かるための作品』の作り方を教えます。時間内に効率よく完成度を高める為の技術や仕事運びを指導します。本来それを美術教育といって良いかどうか疑問です。『受かるための作品』を制作できるよう、毎日毎日同じ石膏像や静物モチーフ等を繰り返し、その描き方を体で覚えて行くただの訓練のようなものだからです。
しかし、この期間で経験する事は非常に重要だと思っています。
自分自身、予備校で教わった事が今の自分の美術に対する考え方の根本を築いているといって過言ではないでしょう。予備校で出会った『美術』という考え方に、大きな衝撃があったのです。それまでは物をそっくりに写し取る事が出来たり、上手に描ければ良いと思っていました。自分はそれを比較的上手に出来た方でした。しかし先生からは、『空間がない』だの『物を面で見ろ』だの『もっと色を感じろ』など、色々言ってきます。空間?物を面で見る?見えない色を感じろ?全く分からない事だらけでした。
絵を描くのに、そんな見方、考え方があるという事が衝撃でした。それまでの考え方を180度変えられた様な気がしました。それくらい衝撃的な出会いでした。
そしてそれが『楽しく』思えたのです。なぜなら知っていると思っていたはずの世界の事を全く知らなかった事に気づき、知らない世界の事をこれから知って行ける様な気がしたからです。そう考えると美術というものが、それまで以上に『自由』なんだと思えて本当に『好き』になりました。そっくりに描く事だけではなく、目の前にある物の中に何が潜んでいるか、探って行く。そして何が発見できるか?その行為自体が美術なんじゃないか?と思うようになりました。
予備校では物を面でみたり、空間の表現方法を学んだり、色彩の事を学ぶ事で、受験実技で必要な基礎実技力を身につけて行きますが、それを繰り返し訓練して行く中で、本当に欲する物に自分自身で気づいて行く事が大切なんじゃないだろうか?その経験が出来るのが予備校ではないだろうかと思います。
だから僕は、単なる受験勉強としてではなく美術を本当の意味で好きになってもらいたいと思いながら、指導しているつもりです。本当に好きならば何かを得ようと自らの意思でもがき、いつか必ず掴む事が出来るからです。僕のやっている指導とは、そこにほんのわずか潤滑油のようなものをたらし込んで後押しをしてあげているに過ぎないと思っています。
好きであるからこそ逃れられない辛さも経験しながら、何かに気づいたり発見したりする実感があると、その人は受験に合格しますから。
長々と読んで頂いてありがとうございました。
次は、教え子でもある首里高校染織科の平安名久美子先生にバトンタッチします。平安名先生よろしくお願いします。